2015年6月27日土曜日
カンガルーケア訴訟で両親逆転敗訴 福岡
カンガルーケア訴訟で両親逆転敗訴 福岡
http://www.sankei.com/region/news/150620/rgn1506200011-n1.html
(記事)次女の脳に重い障害が残ったのは、国立病院機構九州医療センター(福岡市)が出産直後の母親に女児を抱かせる「カンガルーケア」をしたまま経過観察を怠ったためとして、両親が病院側に約2億3千万円の損害賠償を求めた訴訟の控訴審判決で、福岡高裁(大工強裁判長)は19日、病院側に約1億3千万円の支払いを命じた1審判決を取り消し、両親の請求を棄却した。
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アメリカの周産期ジャーナル(2014年4月号)に掲載された
「母子同室(母子同床)における健康な乳幼児の死亡、仮死について」という論文で
ヨーロッパ、アメリカ、そして日本でのカンガルーケア(母子同床)についての調査と研究がなされています。
Journal of Perinatology(2014)34,275-279
Deaths and near deaths of healthy newborn infants while bed sharing on maternity wards
概要としては以下の通りです。
◆研究目的:
母子同室の推進プログラムを評価し、リスクを減らす方法を確立すること。
◆研究手法:
国家医療評価機関のメンバーへ、母子同室による死亡・仮死の情報の報告を要請。
◆調査結果:
死亡した15件と、仮死の3件が報告されている。1つ以上の要因があれば、母子同室のリスクが上昇することが全ケースにおいて言える。
ほとんどのケースで、予期せぬ窒息がもっとも大きな原因であった。
◆結論:母子同室中の新生児の死亡、仮死については依然として報告件数が増えている。
アメリカ乳幼児学会と疾病管理予防センター(American academy of pediatrics and the US Center for Disease Control and Prevention)などがお墨付きを与えている「赤ちゃんにやさしい病院(BFH:
The Baby friendly hospital initiative)」で、母子同室と継続的な早期皮膚接触(STS: Skin to Skin)を強く推奨しているためである。
これらの危険性について、母親達の認知度を向上させ、リスクを減らすための効率的なモニタリングを行うことが母子同室における重要な点である。
日本語訳全文はこちら:http://skepticalob-jp.blogspot.com/2015/07/blog-post.html
この論文で日本人のレポートも引用されています。
リファレンス No.10 母子同室中の早期皮膚接触(STS)での心肺停止により緊急蘇生処置を要した2人の乳幼児のケースについて
(Nakamura.T Sano Y. Two cases of infants who needed cardiopulmonary resuscitate during early skin-to-skin contact with mother.)
論文中では、母子同室の早期皮膚接触の際に新生児が急変し、その後死亡や仮死になった事例を18件取り上げており、ほとんどが母子のみで放置され、母親は鎮痛剤、抗生剤など急変などが容易に発生しうる状況であったことを報告しています。
また手術後で横たわったまま授乳することで、新生児の頸部圧迫、上気道圧迫が非常に起こりやすい状況になり、窒息するリスクについても言及しています。
また、新生児を観察するにしても、病室内が消灯後で暗い、または豆電球程度の照明しかついていないといった照度不足の問題や、分娩による疲労困憊、鎮痛剤や抗生剤の効果による意識朦朧状態などといった母親の不可抗力な問題、本来であればリスクを認識してこれらを管理すべき医療側の認識不足などの問題があります。
論文中で「海外でのケース(No17,18)では、最初のうち母親は子供を意図的に窒息させたと告発され、うち一件では児童保護団体に通報されたと言われている」との記載があります。
この福岡のケースでもそうですが、日本ではカンガルーケアや母子同室での死亡・仮死事故をめぐる裁判ではなぜか両親側が敗訴しており、母親が子供の様子を観察する責任があるとされます。
「母親が子供の様子を観察する責任がある」というのは正論です。
ですが、帝王切開後の状況を考えるとかなり無理があるように思います。
福岡のケースでは帝王切開から10時間後の出来事ですので、母親はかなりがんじがらめにされている状態と思われます。少なくとも点滴、酸素モニター、足元に血栓予防のポンプ(ふくらはぎを固定し、エアポンプでマッサージするマシン)、口元に酸素マスク、排尿用のカテーテルが着けられているはずです。なにより腹を20cm-30cmほど切られ、起き上がることができません。
さらに赤ちゃんを抱くと、視界は赤ちゃんの頭頂部しか見えません。
また母親の意識レベルも非常に低下しています。
手術前の緊張感による睡眠不足と、鎮痛剤と抗生剤の相乗効果によって強い眠気に襲われ、さらに出産後の安堵感と不安感、ホルモンバランスの変化、また体も劇的な変化に対応したための疲労も相当なものです。
さらに言うまでもないですが、手術の後の痛み、後陣痛(子宮が収縮する強い痛み)にも襲われています。
このように、産後の母親は物理的、生理的、精神的にも「普通の状態」とは言えません。
暗い部屋のなかで、薬による強烈な鎮静効果によって眠気に苛まれ、疲労と痛みと戦いながらほぼ頭頂部しか見えない赤ちゃんを抱いたとして、的確に顔色、呼吸、皮膚色、刺激に対しての反応を観察することは難しいため、多くの病院は、安全を優先して新生児を母親に預けることは行いません。母子同室をすすめている病院でさえ、新生児が急変しやすい産後24時間は特に注意していることでしょう。
母子同室を行う上では、
母親の「赤ちゃんを安全に観察できる状態」、赤ちゃんの「産後の環境変化に体が順応した状態(24-72時間後)」、安全に観察できる環境(十分な照明、モニター類、安全な寝具、室内の温度管理)が最低限必要で、これらは通常、医療サービスとして提供されます。
不慮の事故で命を落とす新生児のうち、どの程度が医療過誤(安全管理を怠った母子同室)のケースなのかは不明ですが、母子同室の危険性について早くから報告が進んでいるヨーロッパでも4/1000の割合で発生すると言われているので、日本でも危惧するところです。
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